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第15話『最後の』

 『骨抜き』と『虚破撃』なんて、大層な名前のついた技を教わったが、俺にはどうしても、こいつが技なんて物には思えなかった。ちょっとした小手先の技術、って感じだ。ちょっとかっこいい名前がついただけじゃねえか、とじじいに言ったのだが、「武術なんてそんなもんだ。プロレスだって、相手ぶん投げる技になんちゃらスープレックスって名前がついてるだろ」だとか。
 いや、それは絶対違う話だと思う。
 俺のそんなつっこみなんて聞かないで、じじいはさっさと帰ってしまった。なにしにきたんだあのおっさんは。そう思わなくもない。
 結局孫の顔が見たかっただけなんだろうな。なんだかんだ、あのじじいは孫が大好きらしいし。絶対認めようとはしないけどな。

 それはさておき、傷も治ったし、俺はそろそろアスを取り返す為にスフィア達と決着をつけなくてはならない。
「今回も、いないアスに変わって、僕を使うといいよ龍海」
 シュシュの言葉に礼を言って、俺はやつをクリスタルに戻し、ベットに座っていたルビィを一瞥する。
「そろそろ決着つけに行こうぜ。ルビィ」
「そうね。こっちから魔力出してりゃ、向こうから来るでしょ。――言っとくけど、今回の戦いは、あんたがガイアモンドを取り返せるかどうかにかかってるんだからね」
「わかってるよ。大丈夫」
 手を差し出し、ルビィを立たせ、俺たちは一緒に部屋を出る。
 空の部屋をノックし、返事があったので開けると、空はリオと一緒にベットで向かい合っていた。
「……なにしてんのお前ら」
「あ、お兄ちゃん! もう大丈夫なの!?」
 空が駆け寄って、俺の背中を覗き込む。ちなみに俺はすでに私服なので、いちいち服をまくりあげて見せてやらなければならない。そうしてやると満足したのか、満面の笑みで抱きついてきた。

 頭を撫でてやると、空は離れて、俺を見上げる。
「――あ、お兄ちゃん。今日は学校あるけど、行ける?」
「その事なんだけどな。お前、今日学校サボれるか?」
「え、なんで? 学校は行かなきゃダメだよ」
「そりゃそうなんだけど。そろそろスフィアとの決着もつけないと、だろ?」
 アスを取り返さないと行けないし、今日は学校に行く気がわかない。
 空はじっと俺を見つめ、「わかった。付き合う」とうなずいてくれた。さすが我が妹だ。話がわかる。
 このままの勢いでさあ行こう! ってな段になって、ルビィが口を開いた。
「付き合うのはいいんだけどさ。どうすんの? 勝算とかあるわけ?」
 正直、じじいから教わった技もそうそう大したことはない。ある、と自信満々に言いたいが……。
「……ないこともないけど」
「あるの、ないの」
 はっきりしたこと以外口にするな、と言わんばかりの口調に、俺は渋々「ないよ」と言った。
「でしょうね。――ていうか、私らに今後、勝算なんてこないかもしれないし」
 互いに七天宝珠は三つずつ。しかし、人数は向こうの方が多い。なにより、スフィアはそういういろいろを抜きにしても強い。
「それに、だからこそ、今はチャンスだ。多分、じじいとの戦いでそれなりに疲弊してる。叩くなら今だ」
「……でも、それなら無理には来ないんじゃないですか?」
 首を傾げる空。その意見ももっともだが、俺の知ってるスフィアなら、絶対来る。
「スフィアの性格上、ルビィの存在を感じながら来ないなんて、ありえないだろ」
「……かもね」
 うんざりしたように呟くルビィ。愛されてるのも大変だ。今回はその愛とやらを餌に使うので、俺としては愛されててよかったな、という感慨すら浮かぶ。
 話もまとまり、俺たちは空の着替えを待ち、家を出ることにした。戦いの舞台は、初めてスフィアと対峙した光源神社。

  ■

 光源神社にて、ルビィがブラティルビィに魔力を流し込み、自分の居場所をスフィアたちに知らせる。空はリオと何かを話している。ルビィは鳥居の上に乗って空を見上げ、ブラティルビィを手に持ち、空を見上げている。
 決戦前の静寂をひしひしと感じながら、俺はただ黙って鳥居に寄りかかって、ぼんやりしていた。パンツでも覗いてやろうかと思い、こっそりやつの下を目指しすり足していたら、やつは鳥居から飛び降り、俺のすぐ横に降りてきた。
「来るわよ」
「もう来んのか。空、リオ! 来るってよ!」
 俺は空達の元へ駆け寄り、警戒態勢を取るよう伝える。全員が境内に集まり、どこから来るのか感覚を研ぎ澄ます。
 しかしそんな事は無駄だったのか、普通の参拝客みたいに、鳥居を潜ってやってきた。なんかがっかりしたのは内緒だ。
「――って、龍海あんた、変身しないと!」
 ルビィは心配そうに俺の横顔に訴えるが、俺はスフィア一行から目を反らさないまま、「大丈夫。もうバレてっから」とだけ。「え、そうなの」と意外そうな顔するルビィ。
「ラウドは俺にやらせてくれ。ルビィはスフィアを頼む」
「……了解」緊張したような面もちで呟くルビィ。
「しょーがない。私は余ったの引き受けるよ」と、空は苦笑した。
「さすが俺の妹だ。話がわかる」
 俺たちは七天宝珠を取り出す。
「どうやら、今日で王権戦争も終わりのようですわね……」
 不適に笑い、ウィップサファイアを取り出すスフィアを見据えるルビィ。他の奴らも各々武器を取り出し、俺たちも変身する。俺はシードクリスタルを使い、シルフとなり、空はディープアメジストでスカイに。そしてルビィは――。
「ひゃっはー!! 俺様登場!」
 出てきたのは、なぜかルベウスだった。
「お前、なんで出てきた!」
「んだよタツミ。突っかかってくんなよ。お嬢が頼んできたんだからよぉ」
「……ルビィが?」
「ま、お嬢より俺のが強いからなぁ。賢明な判断っちゃ賢明だな。俺に体預けるっつうのは、アホだと思うが」
「あんま傷つけないよう頼むぞ」
 俺はルベウスと化したルビィの肩を叩く。やつはなぜか俺を睨むと、舌打ちした。
「信頼してるからよ」
「信用に留めときな。俺を頼ってもしかたねえぞ」
 俺は小さく鼻で笑い、それから表情を引き締める。
「行くぞ! 決着つけてやるッ!!」
 俺達三人は突撃し、各々のターゲットに武器を振り下ろした。俺はラウド。ルビィはスフィア。そしてスカイは、ライラックを召喚し、アクセルとジャニスとジミーの足止め。
 空に舞い上がったルビィと、神社内に残ったスカイだが、俺はラウドを森の中に追いやっていた。
「キミの狙いはわかってる」
 何本もの気が並ぶ森の中、やつは俺と向かい合い、偽天宝珠(ダミーセブンス)を軽く放り投がら、そんなことを言った。
「キミが持っている七天宝珠はシードクリスタル。森の中で戦い、多少でも有利にしたかったって所だろう。偽天宝珠とやり合うには、火力不足だからね」
「失礼なやつだな……。あまり僕をナメないで欲しいね」
 と、シュシュ。しかしラウドの言った通りだったりする。用心に用心を重ねても足りない相手だ。
「三十パーセントの出力とは言え、全部の七天宝珠使えるんだしな」
「……それも前回までの話さ」
「あ?」
「キミから奪ったガイアモンドを解析して、八十パーセントのパフォーマンスが可能になったのさ」
「……八十パーセントだと?」
 おいマジかよ!!
 勝てる気がしないんですけど! 前回だってほとんど逃げるみたいな感じだったんだぞ!?
 ――いや、ダメだこんなんじゃ。俺はアスを助けなきゃならない。それに、俺だって多少は強くなってるはずなんだ。やるしかないだろ。
『龍海はアスに対して必死すぎるね。ちょっとジェラシーだよ』
 胸の奥から響くシュシュの声。
「別に。つうか、お前でも同じだから。友達拉致られたら怒るだろうが」
 ちょっとぶっきらぼうに言い過ぎたか、と思っていたら、シュシュが微笑んだ。
『照れ隠しだとしても、嬉しく思うよ』
 別に照れ隠しじゃねえよ。言おうとして、やめた。今は関係ないし。それに、ラウドと戦う時だ。
 やつは偽天宝珠とガイアモンドを持ち、その二つを大剣にする。ガイアモンドの二刀流。それをやつは振るい、斬撃を飛ばしてきた。
 ガイアモンドの攻撃力は、使ってきた俺がよく知っている。木刀を地面に突き刺し、分厚い木の壁を出現させる。しかし、それだけでは防ぎきれない。だから俺は、傍らに立っていた木を見つめる。そいつは、まるで俺に向かって手を差し出してくるみたいに枝を伸ばす。
 いまシードクリスタルと同一化しているからなのか、木や植物と意思が疎通できている気がする。枝に掴まって木に登り、木を介してラウドの真上まで来ると、飛び降りてラウドの頭を狙う。だが、やつは偽天宝珠をウィップサファイアへと変え、そいつで木刀を防いだ。
「くそっ! 厄介だなウィップサファイア……!!」
 八本の鞭に、能力の改竄。防御力でいえば、確実に最強だ。しかし、本物と戦ったからわかる。
「こんなもんじゃ俺は止められねえぞぉぉぉぉッ!!」
 周辺の木々に電波を飛ばし、ラウドを襲うように頼む。無数の木の枝がラウドを襲い、やつはそれをウィップサファイアで防いでいるが、足りなくなったらしく、俺の拘束が解ける。
 その隙に、ラウドに向かって木刀を振るうが、やつは大剣で応戦する。
 だが、パワーで負けてしまい、木刀をぶっ飛ばされた。
「やべっ――!!」
 そこで、俺はふと、ここしかないと思ったりした。じじいに教わった技の一つを使うのは、ここしかないと。
 そう覚悟を決めた瞬間、動きがスローに見えた。ゆっくりと飛んでくるガイアモンドの剣筋。俺はやつの手首に向かって手を伸ばし、掴んで、捻り上げた。
「いったぁ!?」

 やつが痛がった隙に、俺はやつの剣を引き抜いて、奪った。

「ガイアモンド――返してもらうぞ!」



 俺はやつから奪った剣を持ち、すぐに弾き飛ばされた木刀の元まで行き、そいつも拾う。
「おかえり。アス」
『ただいま。龍海』
 胸の奥に響く凛とした声。懐かしささえ感じてしまい、俺は不覚にも泣きそうになった。
『どうした龍海。キミらしくない』
 苦笑するアス。
『友達をそれだけ取り返したかったんだよ』
 と、フォローらしきことを言うシュシュ。
「うるせえな。俺はやるべきことをしただけだ」
『ツンデレだな、キミは』
 ちげえよ。俺は素直な人間だっつの。
「行くぞアス! お前も力貸せ!!」
『了解だ。どこまでも力を貸そう』

 俺の姿が、巫女から白銀のドレスへと変わる。いつもと同じ、アース・プリンセス。
 この姿をいつもと同じ、と言ってしまうのは多少問題だが、なんかもう馴染んできちゃってるし。
「……ガイアモンドを奪った位で、私に勝てると思うなよ」
 ラウドはそう言って、偽天宝珠を長短二本の剣にする。あれは確か、タイムアンバーの武器だ。
『長い方がミニッツハンド。短い方がアワーハンド。タイムアンバー専用武器だな』
 アスの説明に、なるほど長針と短針か、と納得したのは内緒の話。
「パワーアップしたタイムアンバー(偽)の力を見せてやる!」
 その叫びをきっかけとし、俺は槍と剣をとにかくめちゃくちゃに、ラウドが防御しかできなくなるようにと振り回す。俺の思惑通り、やつはタイムアンバーの力を発動させることはなく、俺の攻撃を防ぐことしかできなくなる。向こうは小柄な女で、こっちは曲がりなりにも男(今は女体化してるけど)。基礎体力では負けていないはずだ。このまま押せ押せで行けば、いつか一撃を与えられる。
 そんなことを考えながら、とにかく無心にラウドを攻撃する。
「猿知恵だな」
「んだとぉ!?」
 防御で精一杯のはずだったラウドは、俺を挑発するかのように笑って、そんなことを言う。しかしそれは、俺の動きを止めるための、苦し紛れな挑発だろう。俺はかまわず攻撃を続ける。その瞬間、胸の内でアスが叫ぶ。
『龍海! 右だ!!』
 右を向くと、そこにはもう一人ラウドがいて、俺と同じガイアモンドの剣を振りかぶっていた。バックステップでその剣を避けて、俺は思い出す。タイムアンバーは他の時間から自分を連れてくることができたんだということを。
「しまったな……」
 確かに猿知恵と言われても仕方ないな。分身の件をすっかり忘れてたんだから。
「この分身は、何人でも呼び出せる。僕の時間がある限り」
 そう言うと、周辺に何人もラウドが現れた。全員偽天宝珠を持っている。
「やっべ……心が折れそう」
 これどう足掻いても勝てなくね。
『諦めるな龍海。僕を使え。寄生させろ』
 胸の中から響くシュシュの声。そうか。こっちもそう言うのができたね。
 俺は、ポケットからシードクリスタルを取り出し、服の中に手をつっこんで胸にくっつける。まるで種が地面に根を張るように、俺の体の中に木の根が張り巡らされる。前進に注射されたときのような小さな痛み。俺の中にある生命力をシードクリスタルが吸い取っていく。
 地面に木刀を突き刺すと、そいつがどんどん大きくなって、樹齢何千年もありそうな巨大な木になる。俺はそいつの上に乗って、辺りを見回す。
「出てこい木目ゾンビども!!」
 周辺に、ラウドと同じ数ほどの木目ゾンビが現れる。ついでに――
「なあシュシュ。あのドラゴン、作れるか」
『ああ。行ける』
 よし。と小さく呟いて、俺は胸のシードクリスタルに念じて、巨大なドラゴンを作り出した。学校の屋上で戦った、シードラゴンだ。偽天宝珠なら、多少苦労する相手のはず。
 しかしそのおかげで、だいぶ体力を持って行かれた。息切れを起こし、胸を押さえる。
「派手な戦いだな」
 確かに。俺は大樹とゾンビとドラゴンまで作り、向こうはリアル影分身って感じだ。マンガなら見開き一ページ使うだろう。
 しかし、こっちはゾンビで向こうは一人一人が生きた人間。数は負けてなくてもその実力に大きな差がある。俺と、シードラゴンのの働き次第。
「こっからが本番だ。いくぞ蟻共!」
 木から生えたバットを引き抜き、大樹から飛び降り、大勢いるラウドに向かって走り出す。
 目前に迫るラウド達が武器を振るってきたので、それを華麗に避けてみせ、一人の頭をバットで思い切りミートし、もう一人の腰にタックルし、持ち上げ、思い切り後方にいる他の連中に向かって投げ飛ばす。やっべ。一対多数
ってなんかすごいテンション上がる。なにこれ。
「おらぁどんどん来いやぁぁ!!」
「ご要望にお答えしよう」
 その瞬間、俺の周辺にワープしてきたラウドが一ダースほど。しかし、シードクリスタルの力を発動し、木で針の山を作る。それにまるで、鳥葬みたいな感じで、ラウド達が突き刺さる(といっても、先端は丸くしてあるから刺突き破ってはない)。以外とシードクリスタルって、多数を相手にするのに向いてるのかもしれないな。今回の鍵は、以外にもシードクリスタルか?
「ちぇ。やるねキミ。使い方をちょっとは心得てきたかな?」
 目の前にいるラウドが、鼻で笑ってそんなことを言った。バットを振りかぶると、そいつはガトリングを取り出してきた。俺は、地面に走る木の根を急速に成長させ、壁を作り、そのガトリングを防いだ。
「こっちには、そもそも使い方を知ってる七天宝珠の所為がいるんだ。そいつらから聞けばいい」
 向こうになくて、こっちにある物。それは七天宝珠の精だ。向こうは一人でも、こっちには味方がいる。自分の使い方は、自分が一番良く知っているだろ。
『だったら私の話も聞け。こんなの、ガイア・ス・モーゼで一掃しろ』
「ああ、なるほど。そいつはいいな」
 俺は、頭の上にガイアモンドの大剣を振りかぶり、魔力を溜める。そして、一気に振りおろし、山を割る!
「――今ので何人くらいやったかな?」
 ひひひ、と笑って見せると、ラウドは歯を食いしばり、親の敵みたいな目で俺を睨んできた。恨み骨髄って感じ。むしろ怒髪天ってところか。シードラゴンは結構善戦してるし、ゾンビもまだまだ出せる。しかも向こうは、だいぶ魔力を持っていかれてるみたいだし。――いや、それはこっちも一緒か。燃費の違いだ。
「てめえ……本物使ってるからっていい気になりやがって!」
「口調変わってんぞ」
「うるせえ!! てめえの過去を殺してやる!!」
 叫ぶと、やつは短針と長身の剣の柄を合わせる。過去に飛ぶつもりか。
「冗談じゃねえ! それ反則だろうが!!」
 どの時間に飛ばれるかわからねえが、その時間の俺が対応できるかわからない。飛ばれる前に止めなくては。
「――かかったね」
 にやりと笑ったラウドに、俺はいやな予感を覚え、急ブレーキをかけるが、やつは偽天宝珠を、ディープアメジストモードへと変更。巨大な鎌を俺に向かって振るう。避けようにも、慣性の法則というやつか、俺の体は止まっているにも関わらず、前進しそうになっている。サイドにもバックにもステップはできない。残った選択肢は、武器で受けるしかない。しかしディープアメジストを受けるということは、武器の能力がなくなるということだ。俺の体に受ければおそらくどちらも封印される。どっちの武器で受けるか。俺は一瞬迷った挙げ句。ガイアモンドを選択した。
 大剣で鎌を受けると、剣が消えた。アスとも会話ができない。どうも封印されたらしい。なんか悪い。
「シードクリスタルを選んだか。意外だね」
「今回はシードクリスタルが有効だと思ったのさ」
 それだけの話だ。
『やっと僕の実力がわかったか。アスなんかには負けないってことが』
 それは勝手にやってくれ。俺はどっちが強いかんて興味ねえんだ。
 だけど、今回ばかりは信じてるぜ。シュシュ。
「死なないくらいには吸ってくれて構わねえぞシュシュッ!!」
『そのつもりだ! 生かさず殺さずが僕のモットーだからね!!』
 ぐん、と俺の中にある何かが如実に吸われていく。それに伴って、シードラゴンやゾンビ共の動きがよくなる。残りのラウド達もこの調子なら倒せそうだ。
「しょうがない……少し早いけど、計画を始めよう」
 そう言って、やつは指を鳴らす。
 周囲を取り囲むラウド四人。そいつらは、一人ずつ手に七天宝珠を持っていた。ブラティルビィ、ウィップサファイア、ディープアメジスト、バレットパールの四つ。
「……お前これ、どういう」
 ニヤリと笑い、ラウドは「他の連中から奪ってきたんだ」と、ラウドは分身から七天宝珠を受け取り、それを偽天宝珠にくっつけていく。まるで何かを吸い取るみたいに。持っていたすべての七天宝珠にそれをすると、まるで価値がなくなったゴミみたいに、四つの七天宝珠を捨てる。
「お見せしよう。『絶対宝珠(プリマ・フィナーレ)』の片鱗を!」


  ■


「やっぱり私だけ、人数多いなあ」
 私こと村雨空は、お兄ちゃんとルビィさんが、それぞれの相手と去った境内で三つの人影と向い合い、ため息混じりに呟いた。えーと、たしか、アクセルさんとジャニスちゃんとジミーさんだっけ。そういえば、ジミーさんには一回会ってるな。ハピモアで暴れてたはず。お兄ちゃんはラウドって人に因縁あるし、ルビィさんはスフィアさんと決着をつけなきゃならないし。なら私は、なんの因縁もない私は、こういう風に、裏方に徹するしかない。
『空ちゃん。こういうところが踏ん張り所よ』
 耳元でそっと囁くリオさんに励まされ、私は鎌で宙に円を書いて、そこからライラックを召喚する。
「ぐぅ……ぐるるる……」
 喉を鳴らすライラックの足を撫でる。固くて冷たい宝石の鱗に、すこしだけ見蕩れてしまう。
「……この人数で相手にするのは、俺の主義じゃないな」
 突然に、アクセルさんは顎を押えながら、私とライラックを見てそんなことを呟く。紳士的な人だな、と感心しながらも、なんとなくナメられているんだともわかる。
「ジミー。ドラゴンの相手はお前に任せる」
「ええ!? ちょ、待ってくれよ! 俺七天宝珠持ってないんだぜ!? 勝てねえよ!」
 アクセルさんの胸に掴みかかるジミーさん。しかし、アクセルさんは表情を崩さない。
「だからドラゴンにぶつけたんだ。――それとも、お前が七天宝珠の相手をするか?」
 私とライラックを見比べて、ジミーさんは生唾を飲む。
「……わかった。俺がジュエルスドラゴンとやるよ」
 私のほうがライラックより怖いんだ、と意外に思ったけれど、これは言ったら怒らせるだけだろうし、やめておく。七天宝珠の力って、よっぽどすごいんだな。
「アクセルさん! 最初から全力?」
「ああ。全力で行こう」
 アクセルさんがバレットパールで腕に装着するガトリング砲を出現させ、その中に、電気と化したジャニスさんが入る。バレットパールレールガンモード、とでも言うのかな。ジミーさんも、マイクスタンドをどこからか取り出し、ライラックを睨んでいる。
 私がここで全員倒して、二人の邪魔をさせないようにしないと。今度二人には、この借り返してもらわなきゃ。
 私、頑張る!


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