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第7話『VS妹―覚醒―』

  スフィアの案内が終わったので、俺は家に帰ってきた。頭に幾つものピースが転がっている。そのピースを組み合わせて出来た絵は、俺にとっては信じられない物だった。
 しかし、兆候というか伏線はあった。しかし、それが本当であるか信憑性があるかは、また別の話。だから俺は、本当かどうか空に聞いてみることにした。だって兄妹だろう? 敵であるなら――そんなことはできないが、俺達は兄妹。きっと素直に答えてくれるだろう。
 空の部屋をノックして、返事があったのを確認して入室。勉強机に座っていた空は椅子を回転させ、かしこまった様子で俺を見ていた。
「どしたの、お兄ちゃん」
「……話がある。嘘はなしだ」
「へ? ――じゃあとりあえず、そこにでも座って」
 空は、床に置かれた座布団を指差す。俺は遠慮なくそこに腰を降ろし、空の目を見る。
「空、お前。スフィアって知ってるか」
「し、知らない。誰、それ?」
「じゃあ次だ。七天宝珠は知ってるか?」
「知らない」首を振る空。その姿を見て、俺は嘘だなと確信を持っていた。
「空。俺の目を見て話せよ」常に俺の目を見て話す空が、今は目を逸らしている。空は正直で、嘘なんてつけない。嘘は吐き慣れない奴が吐くと、すぐバレるのだ。
「なあ空。俺はお前の兄貴だ。お前が嘘を吐いてるかどうかくらい、すぐにわかる。――お前、本当は七天宝珠持ってるんだろう? それを渡してくれないか」
 俺は手を差し出し、空を見る。咎めるのではなく、諭す様な視線を心がけて。
 すると、空はゆっくり立ち上がり穿いていたスカートのポケットから紫色の宝石を取り出した。やっぱり持っていたか、と俺は一歩踏み出してそれを取ろうとする。しかし、手を引っ込めて、空はニヤリと笑った。俺の知らない空の顔。こいつ――誰だ?
「ふふふ。龍海くん……だっけ? これが貴重な物だっていうのはわかってるんでしょう?」
「は? ――ああ。わかってるよ。お前が持つ物じゃないこともな」
「ふふっ。何を馬鹿な事を……。私は、自分から望んで空ちゃんの手に収まってるのよ。やすやすと離れてやるもんですか」意味がわからない。空が空の手に収まっているとでもいうのか?
 俺は訝しげに顔をしかめると、空は宝石を真上に投げる。それを胸の前掠め取り、「変身」と呟いた。
 すると、空の体が紫色の光に包まれる。それはまるで、ルビィが変身する時の様だ。そう考えた俺はすぐさま立ち上がって身構える。
 光が治まると、そこに立っていたのは空ではなく紫のゴスロリに同色の髪を持った少女だった。
「スカイ・デイブレイク。見参って感じ?」
 猫なで声でにこやかにウインクして見せる少女――スカイは、掌を見せつける様に差し出すと、一条の光が掌の前に現れ、それを握る。すると、その光は巨大な鎌となりスカイはその鎌を振り部屋の壁を切り裂く。大きな円を描き、外へ繋がる穴が出来た。
「さぁ、追ってきなさい龍海くん。妹が愛おしいなら、ね」
「っ――のぉ!!」
 俺が一歩踏み出した瞬間、スカイはすでに穴から家の外に出ていた。まるで幽霊さながら、ふわふわと空へ吸い込まれて行った。
「くっそ!」
 ルビィを呼んでこなくては。踵を返そうとした所で、部屋のドアがノックされ、返事も待たずに開かれた。
「空さーん……ちょっとお静かに――って、なにこれ!?」
 開いた穴を見て、目を丸くするルビィ。ナイスタイミング、と誉めてやりたかったが、それを無視して叫ぶ。「ルビィ、変身だ!!」
「はっ? ……わ、わかった!」
 ルビィの姿が一瞬で魔法少女のそれになる。ルビィは左手に填められていた指輪を外すと、その指輪がステッキへと早変わり。俺の姿もハムスターになり、ルビィの肩に乗る。
「上に敵がいるぞ」
「敵? 誰よそれ」
 ルビィが穴から外へ飛び出し、上空へ向かう。風が体毛を後ろに追いやり、毛と毛の隙間にひんやりと冷気を感じる。
「空だよ。あいつ、七天宝珠のひとつを持ってやがった」
「なにを持ってたのよ。シードクリスタル? タイムアンバーとか?」
「いや。あれは多分、アメジストだな」
 宝石に詳しい訳ではないから断定は出来ないが、あれはおそらくアメジストのはずだ。
「アメジスト……ディープアメジスト。よりによって三強のひとつかぁ」
 目を手で覆い隠すルビィ。現実に蓋は出来ないので、変わりに目に蓋をしました、という具合だ。
「それはどういう能力なんだ?」と訊く直前、相当な高度まで上がってきたことに気づく。そして、目前にスカイがいたことにも。
「ハロゥ、ルビィちゃん」
 ひらひら手を振るスカイ。ルビィは威圧するように睨みつける。
「あら怖い。そんな顔したら女が減るわよ?」
「あんた、なんで私を知ってんのよ」
「あなたが小さい頃から見てたからね」
「……なによそれ?」
「ふふっ。ひ、み、つ」
 埒が明かないと思ったのか、ルビィはステッキをフルスイングし、赤い斬撃を飛ばす。スカイは体を半身にすることでそれを避け、ハイスピードで突撃してくる。
「シャァッ!!」
 ヒュンっと風を切る音がして、鎌がルビィの首へ迫る。しかし、鎌をステッキで押さえ込み前蹴りを放ち、それがスカイの腹に命中。ぐえっ、とカエルのような声を出し、苦悶の表情を浮かべるスカイ。その隙にルビィは距離を取る。
「おいルビィ! あれ空の体だぞ!?」
「大丈夫。手加減はした、からぁっ!!」
 そして、もう一度斬撃を飛ばす。今度は避けること適わず、鎌で斬撃を切り落とした。手加減って、どう考えても前蹴りが効いたから避けなかったんだろ。嫁入り前の体に痣が残ったらどうする。
「さすがルビィちゃん。知り合いの体でも容赦ない。……これ以上空ちゃんを危険に晒すわけにはいかないし、ここは――」
 スカイは、転移魔法で多少の距離を取る。大体十メートルほど。逃げるのか、と思ったがそうでもないらしい。先ほど壁を切り裂いた時と同様、中空に円を描く。そこに、円形の穴がぽっかりと開いた。中空に穴が開く、という光景が初めてだったので、俺はその穴同様に口を大きく開いてしまう。
 穴からは紫色のドロドロした空間が覗いている。なにか嫌な気配を感じるのは、気の所為だろうか。
「ディープな世界に、ハマってみる?」
 スカイがニヤリと笑う。そして「いらっしゃい! ライラック!!」と叫ぶ。その瞬間、腹がカッと熱くなる。ガイアモンドが警告を発しているのだ。やばいぞ、危ないぞ。逃げた方がいいぞと。
 穴の縁を大きな爬虫類の手みたいな物が掴む。そのままグッと力を込め、自身の体を持ち上げるようにして穴から龍が這い出してきた。
「な、なんじゃこりゃああ!!」
 バカデカいトカゲの様で、羽根をバタつかせて飛ぶ。爪はどうやら鉄らしく、鱗はなんと宝石らしい。俺も大層驚いたが、ルビィも驚いているらしく大きく口を開け、目も皿の様に見開いていた。


「ジュ、ジュエルスドラゴン……!?」
 あのドラゴンはジュエルスドラゴンと言うらしい。確かに、ジュエルスドラゴンという名にふさわしい輝きを誇っている。正直、これは勝てるのか疑問だ。しかしルビィは驚きこそすれ戦意を失ったわけではないらしく、ステッキを構えて叫ぶ。
「ゴン! 魔力!!」
 言われて、手馴れた動作で魔力をルビィへ送る。
「ブラティルビィ! 魔力強化!!」

 ルビィの魔力が爆発的に膨らんでいく。そして、弾丸のような速度で飛び出し、ジュエルスドラゴン――ライラックの鼻先目掛けてステッキを振り下ろす。だが、宝石で出来た鱗に通用するわけがない。左からライラックの腕が迫ってくる。ルビィは防御魔法を展開し、それを防ぐ。だが、強靱な握力でそのバリアを砕こうと手を握り締める。
「ヤバいぞ! どうすんだよルビィ!!」
 俺が叫んだのをきっかけにしたようなタイミングで、バリアにヒビが入る。
「もち、逃げるって!」
 転移魔法を展開しようと、ステッキに命令しようとした瞬間、俺達の後ろにスカイが現れた。
「二対一だって、忘れたかしら?」
 鎌を振り下ろし、ルビィを狙う。しかし、その刃先はルビィが張ったバリアに阻まれ俺たちには届かない。だが――

「封印」と、スカイが呟いた瞬間。バリアが最初からなかったかの様に消える。
「「嘘っ!?」」
 ハモった。これはマズい。握り潰されるか斬られるか。
 しかしルビィはしゃがみ込んで、ステッキを立てそれで鎌を防ぐと同時につっかえ棒の役割をさせた。
「ゴン! GO!!」
「はっ?」
 なにを言われたのか脳が認識する前に、俺はルビィにブン投げられてスカイの顔面に張り付いた。
「きゃぁ! ハムスター!?」
「うおっ!」
 顔に手を伸ばし、俺を引っ剥がそうとするが、反射的に俺は逃げる。しかし、手を滑らせてしまい、俺は襟首から服の中に落ちてしまう。反射的に何かを掴み持ちこたえるが、俺は何を掴んだのか暗くてわからない。
「ふ、服の中入ったぁぁぁぁぁッ!! しかもブラのホック掴んでるうぅぅ!!」
 えっ、それはすいません! 手を離そうとするが、そこで気づいた。そもそもこの手を離せば俺はスカートから落ちてしまう。……残念ながら、手を離す訳にはいかないらしい。
 スカイは俺をなんとか服から出そうとジタバタ暴れている。まるで地震のように揺れ、柔らかく汗ばんだ肌に体を叩きつけられ、俺の握力が限界に近付いていく。
「よくやったわ、ゴン」
 と、もう少しで手を離してしまいそうだったその時、ルビィの声がした。そして、大きな衝撃とスカイの悲鳴。俺はその衝撃がきっかけで、手を離してしまいスカートから下に向かって落ちた。
 ――と思いきや、スカイの下で待ち構えていたルビィのステッキに乗せられ、俺はステッキと一緒にルビィの手元へと戻ってきた。
「ナイス。いい具合にスカイを引きつけてくれたわね」
「……い、一体なにがどうなってんだ?」
 俺を掌に乗せ、ステッキを脇に挟み、俺の頭を人差し指で撫でるルビィに聞いてみた。
「スカイがあんたに夢中な間に、転移魔法で後ろに周り込んで攻撃しただけよ。まあ、……引きつけ方に問題はあったけど」
 指で撫でるから、指で突っつくに移行する。地味に痛い。
「ルビィちゃん……。空ちゃんの体だって言ってるのに、魔力砲を至近距離からぶつけるなんて」
「ええ!? お前人の妹に何してんの!?」
「いや、今はスカイだし……」
 顔を赤くして頭を掻くルビィ。……この野郎、空だってことを忘れてやがったな。
「私だって、空ちゃんを傷つけたくはないんだから……。手荒なことは、ライラックに全部任せるわ」
 その言葉がわかったのか、スカイの後ろからライラックがミサイルのように飛んでくる。
「ゴン! 行くわよ!!」
「了解!」
 俺はステッキの先端に移動し、魔力をステッキへと送り込む。
「ブラッティ、インパクトォォ!!」
 槍投げの要領で、ステッキをライラックに向かって投げる。魔力でブーストされ、どんどん加速していきライラックの眉間にぶつかる。
「うるぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 腹に力を込め、ガイアモンドの魔力を絞り出す。目の前のドラゴンをぶっ飛ばすことだけをただ考える。
 次の瞬間、目の前に火花が散り、俺とドラゴンの双方がぶっ飛んだ。俺はステッキと一緒にルビィの手元へ。ドラゴンはスカイの傍らに押し戻された。
「すごいわねえ龍海くん。ライラックと五分だなんて」
 スカイは、鎌の柄を叩いて音の無い拍手をする。俺は、その言語に驚いてしまった。「なんで、俺が龍海だって知ってる」
「なんでって。貴方の体にガイアモンドの波長を感じるからね。龍海くんにもあったし。同一人物だと思うのが普通じゃない」
 ……なるほど納得。
「でもね、ガイアモンドとブラティルビィを持ってても、貴方達は私には勝てないわ」
「……なんですって?」ルビィの言葉から、多少の怒気を感じた。やってみなくちゃわからないじゃない、と怒っているらしい。が、そんなルビィの考えを察しているのかいないのか、スカイはわざとらしく大きなため息を吐く。
「貴方達の七天宝珠は、まだ覚醒してないのよ。わかる? まだ眠ったままの状態なの」
「…………」ルビィは押し黙ったまま、何も言わない。
「龍海くん。あなたもなんとなくわかってたんじゃないの? 七天宝珠で一番の攻撃力を持ってるガイアモンドが、さっきのブラッティインパクト……だったかしら? あれだけの能力だなんて、変だと思わない?」
 ……たしかにそうだ。ルビィは出会っていの一番に言っていた。ガイアモンドは七天宝珠で一番の攻撃力を持っていると。それに、ウィップサファイアはムチに姿を変えるし、ディープアメジストは鎌に姿を変える。俺たちが持っている七天宝珠だけ、姿を変えてはいないのだ。
「でも、私はすでに覚醒している。いくら三強の一角でも、それじゃ私には勝てないわ」
「……だったら、もう一つ!」
 ルビィは、耳につけていたバレットパールを取り外し、魔力を注ぎ込む。すると、ルビィの右手が白い光に包まれて変化していく。……が、一瞬そよ風が吹いたかと思えばその光は収まっていた。
「……あれ?」目を丸くするルビィ。
「ん?」スカイもその出来事は想定外だったのか、首を傾げる。

「バレットパール! 奪い返したー!!」

 と、大声が聞こえたのでそちらを向くと、遠くにジャニスがいた。手にはバレットパールを持っている。どうやら俺たちの隙を突き、光速移動でバレットパールを奪い取ったらしい。ぽかんとするルビィとスカイ(とライラック)を横目に、ジャニスは体を翻し、逃げていく。
「ま――待ちなさい!」
 ルビィは急いでジャニスを追う。ルビィの声に意識を取り戻したのか、スカイもライラックの頭に乗りジャニスを追う。
「こっこまーでおーいでー!!」
 なぜだか知らないが、ジャニスはスピードを手加減しているらしく、追いつけないまでも諦めさせないギリギリの距離で逃げている。俺が気づいているのだから、おそらくルビィも気づいているだろう。これは確実に罠だ。だが追いかけないわけにもいかない。七天宝珠は一つあるだけで相当厄介なのだ。
「なによあのちびっ子! 私のバレットパールなのに!」と、ライラックの上でスカイがキレる。その言葉にルビィは「あれは私のだ!」と叫び返す。
 そうこうしてジャニスを追う内に、俺達は光源町の近くにある廃港へとやってきた。ジャニスはそこへ降りると、倉庫の屋根に立っている一人の男の元へ向かった。俺達もその男の前に降りると、男は腕時計に目をやり、ジャニスに向かって一言。「早かったな」とぶっきらぼうに言い放つ。
「うん!」
 元気よく頷いて、ジャニスは男の腰に抱きついた。男は、金髪を全体的に一センチ程度に切りそろえた短い髪型で、碧眼の白人。迷彩柄の軍服を着て、ガタイがいい。ボクサーならヘビー級といったところだ。鼻は高く、目付きも鋭い。映画俳優の様だ。男はジャニスの頭を撫でながら、俺達を睨む。
「ガイアモンド、ブラティルビィ、ディープアメジストか……」
 俺たちの持っている七天宝珠をカウントし、男は「我が主、スフィア様の為に、全て渡していただこうか」と呟く。
「――そこまでの大口。逆に清々しいわ。行きなさいライラック!」
 スカイはライラックから飛び降りる。ライラックはスカイが降りたのを確認すると、男とジャニスに向かって爪を振り下ろす。
「ジャニス。寄越せ」
「はーい!」
 ジャニスは素早くバレットパールを男に手渡し、男はバレットパールを発動させる。その瞬間、ライラックが弾き飛ばされ、海まで飛んでいった。驚いた俺は、飛んでいったライラックから男へ視線を移す。すると、男の左腕がガトリング砲と化していた。
「申し遅れた。俺の名はアクセル・ラウズ。スフィア様の部下だ」

「……スフィアの部下? おかしいわね」
 ルビィは眉を眉間に寄せて、ルビィはアゴに手をやる。そして、アクセルの姿を上から下までじっくり見ると、「スフィアの部下のくせに、私には見覚えがないのよねえ……」
「は?」俺はわけがわからず、ルビィの顔を見た。
「スフィアは新しい部下が入れば、頼んでもいないのに私に見せに来るのよ。『これがお姉さまを守る新しい仲間ですわ!』とかなんとか言って」
 相間に似てるモノマネを挟んだのもそうだが、たしかにそれはスフィアの言いそうなことだ。
「私は誰かを従えるって、柄じゃないからしてないんだけど。スフィアは昔からそういうのが好きだったのよ。だから、自分の近衛兵をたくさん欲しがった」
「……ああ、間違いない。俺も、ルビィ様と会うのは初めてだ。写真はしこたま見せられたがね」
 自嘲気味に笑うアクセル。そして、左手のガトリングを撫でる。
「……バレットパール、だったか。これはいい兵器だ。俺には使いやすい」
「バレットパールの力は『放出』」と、いきなりスカイがなげやりに叫ぶ。「銃器となり、自身の魔力、想像力を糧として弾丸を放つ、七天宝珠第二位の攻撃力を持つ宝石。まあ、見た目にはマッチしてるから、その所為かしら?」
 スカイの言いたいこともわかる。
 俺が首を傾げたのがわかったのだろうか。アクセルは唇を笑みで歪め、ガトリングを軽々と俺たちに構える。
「俺も、君主の姉に粗相は働きたくない。すべての七天宝珠を渡してもらおう」


 ルビィはステッキを握り締め、思い切り振りかぶる。「今まさに、粗相してるところでしょう、がっ!!」紅い斬撃を放ち、そのまま斬撃の後ろに隠れる様にしてダッシュ。
「ジャニス」小さく呟くと、ジャニスは返事をせずダッシュする。そして、斬撃を電気をまとった掌底で潰し、そのままルビィの振りかぶる。その掌底をステッキでガードする。瞬間、俺はジャニスの肩越しに、ガトリングを放とうとするアクセルが眼に入る。
「ルビィ躱せ!」
「無理!」
 ルビィとジャニスは、ステッキと腕で鍔迫り合いをしている。……いや、ちょっと待て。これなら、ジャニスにも当たるんじゃないのか? なら、アレは俺たちの体勢を崩そうとする脅し? そんな事を考えていたのだが、アクセルはなんのためらいもなく撃った。幾重にも重なる破裂音が耳に届く。加速した知覚が叫ぶ。俺達に――ジャニスに当たるんじゃないのか? と。だが、突然ジャニスの姿が火花が折り重なった様な姿に変わり、弾丸がジャニスを貫き、真っ直ぐルビィの頬を掠める。
「嘘……!?」
 一筋の紅い雫がルビィの頬を掠める。だが、それだけでは終わらない。まだ大量の弾丸がルビィと俺に向かってきているのだ。
「……ったく、しょうがないわねえ!」
 流石に死んだか、と思った瞬間。ルビィの上をスカイが飛び越えて行き、全ての弾丸を叩き落す。
「スカイ! お前、なんで!」力を込めている所為でしゃべれないルビィに変わり、俺が叫んだ。スカイは、鎌を脇に挟んでから振り返ると「一応、空ちゃんのお兄さん殺すわけにいかないしね……」と、ため息混じりに言う。「こっちのゴツイのの相手は、私がするわ」
「お嬢さん。……キミは、おそらくスカイ・デイブレイクだとお見受けするが」
「そうよー。さっきは、よくもまあ私の可愛いライラックをやってくれたじゃない」
「お前は、スフィア様とは関係ない。……殺しても問題はなかろう。王権戦争に殺し合いはご法度だが、エントリーしていないお前にそのルールは適用されん」
 そうね。とつまらなさそうに呟くスカイ。
「けど、あなたに私が殺せるかしら?」
 言った次の瞬間。二人は同時に踏み出し、斬り合いを始める。嵐の様なスカイの斬撃を、アクセルはガトリングの銃身で受けきっている。

「ゴン! 今はこっちに集中!!」
 ルビィにどやされ、俺は魔力を送り込む。その瞬間、ルビィは思い切りジャニスを押し、離れる。一瞬体勢を立て直そうという判断だったのだろうが、ジャニス相手にそんな事が叶うはずもない。光速で距離を詰められ、服を掴まれ電気がルビィの体に流れる。
「あぁぁぁぁぁっ、あ、あああッ!!」
「いってええ!?」
 電撃を体に流されるというのを初めて体験し、俺はルビィにしがみつくのも辛いほど体が痙攣してしまう。ルビィも、体をビクビクと震わせながらなんとか拳を振りかぶり、ジャニスの顔面を狙う。女子にしてはまっすぐと、そして勢いのあるストレートだが、ジャニスの顔面をすり抜けてしまう。当然だ。やつの体は電気そのものなのだから。
「ダメだよルビィさま。私の体が電気だってことは、よく知ってるでしょ?」
 舌打ちをして、「なら、これはどう!」とステッキを構える。
「防御魔法、展ッ開!!」
 ルビィの叫びに呼応するかのように、ステッキが光る。そして、次の瞬間ルビィとジャニスの間に薄い膜が張られる。しかしそれは、ルビィ本人ではなくジャニスを閉じ込めていた。
「……へ?」
「なんべん言わせるのよ。この戦いは、倒せば勝ちじゃないのよ?」
 そう言って、ジャニスに投げキッスをするルビィ。そして、その横を悠然と通り抜けていく。そんな様子からジャニスは、出してもらえないと判断したのか思い切り泣き出してしまう。
「う、ううううッ! ルビィさまあ!! ここから出してぇええッ!?」
 叫ぶジャニスだが、ルビィは余裕で知らんぷり。外道である。

「ぬぅうッ!!」棍棒の様にたくましい大きなガトリング砲を振り回すアクセル。
「いよい、っしょっと!」そんなガトリング砲を細い鎌で受け流しつつ、隙を覗うスカイ。
「ねえおじさん。お年はいくつ? そろそろキツイんじゃないのッ?」
「お嬢さんこそ。歳はいくつかな。刃物を振り回すには、ちょっと早い年齢に見えるがね」
 額に汗し、呼吸を荒げ、挑発がどもつくスカイとは対照的に。アクセルは汗ひとつかかず、息も乱さずスカイに相対している。まだまだ余力を残していると見てもいいだろう。それはスカイもわかっているはずだ。俺――いや、おそらくはルビィも、スカイを心配して見守っていると、アクセルの後ろからライラックがのそりと現れる。体は海水に濡れ、目はアクセルへの憎悪で満たされている。
「があぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 ライラックが叫ぶ。爪を振りかぶり、アクセルの背中を削ぎ取ろうとする。が、それを右手で受け止め、スカイを前蹴りで突き飛ばし、左手のガトリングを肩に乗せロケットランチャーに変化させる。それを、後ろのライラックに向かって放った。爆音、そして爆炎がライラックを包み、再び倒れる。
「まだまだぁ!」
 瞬間移動で距離を詰め、斬撃を放とうとするルビィだが、アクセルはステッキを掴んで斬撃を止める。
「甘い」そのまま、後ろにルビィをぶん投げる。ライラックの腹に叩きつけられたルビィは、背中に当たる宝石の鱗の硬さに苦悶の表情を見せる。と、その瞬間。俺の体がハムスターから人間に戻り、ルビィと寄り添う様な形になる。
「あれ!? なんで戻った!?」
 手を見る。続けて体を見る。特に変わった所はないので、おそらく完全に戻ったのだろう。
「……ちっ。魔力、切れちゃ、ったか」
 ルビィの舌打ちが虚しく響く。そして、アクセルの隣にいつの間にか解放されたジャニスが立つ。目が赤い辺りから察するに、そうとう泣いたのだろう。
「殺しはしない、が。手足を使えなくするくらいは覚悟してもらおう」アクセルの左手がガトリングに戻り、連射。ルビィはボロボロで立てない。俺がなんとかするしかない。そう考えた瞬間。俺はアクセルとルビィの間に立ち塞がると、まるで映画のワンシーンの様に、ガトリング弾の雨からルビィを庇う。全身に穴が空き、その中から血が吹き出した。
「た、たつ、龍海……?」
 全身から力が抜け、俺はトタン屋根の上に倒れた。俺の体が冷える代わりに、血のおかげでトタンが温まっている。
「うそ、でしょ……お兄ちゃん……?」
 スカイの人格が空に戻ったのか、地面に崩れ落ち、俺をお兄ちゃんと呼ぶスカイ。
「龍海! アンタなにしてんの!? 私は殺されないから、庇う必要なんて……!!」
「あー……そう、だなッ」息が思ったように入ってこない。
 俺だって、失敗したと思っている。
「まあ、でも……目の前で誰かに怪我されるよかは、俺が怪我した方が……マシ……」
 目の前が暗くなってきた。見えるのは、夕日が沈む水平線。
 ちょっと後悔があるけど、これはこれで悪くない死に方かもしれない。ただ死ぬよりは、自己満足かもしれないが満たされた。

 バイバイ。空。
 バイバイ。ルビィ。


 ■


「死なないようにしろと、私は忠告したつもりだったのだが……」
 と、暗闇の中声が聞こえた。ゆっくり目を開くと、真っ白い天井。そして、上半身を起こすと、目の前には椅子に座った一人の少女が座っていた。真っ黒な黒髪に、白いワンピース。裸足で、片足を椅子に乗せ、パンツが見えそうな座り方をしている。
「……ああ。アンタ、アスか」
「初めまして」と、にっこり笑う。ジャニスより少し年上の、中学生くらいだろうか。肌はきめ細かく、化粧もしていないが、何故か大人の女性の様に華やかだ。
「さて。キミのおかげで私も大ピンチだ。どうしてくれる」
「……すい、ませんでした?」
「よしよし。謝罪の意思はあると。後は行動だけだな」
 ……いや、そもそも。俺なんで謝らされてるのかわからないんだけど。
「もう気づいているかと思うが、私はガイアモンドだ」
「…………うえええええええええ!!」
「気づいてなかったのか……」
「なんで人間が七天宝珠なんだよ!」
「これは私達の思念体だ。スカイだって、人間体で現れただろう?」
 ……ああ。あのむっちんお姉さんか。あれ誰だろうと思っていたが、ディープアメジストだったのか。
 で、こいつがガイアモンド。……よくわからん話で、俺には理解しきれん。
「さて。じゃあ行こうか」
「……え。どこにですか?」
「もちろん。戦いにだよ。このまま怪我した二人を置いて、死んでもいいのかい?」
 俺は膝に手を突いて立ち上がり、「死にたくない」とアスを見つめる。死んでもいいが、生き返れるのなら、生き返りたい。
「――少し、物足りないが。お前を私の主と認めよう。さあ目を覚ませ。戦いの始まりだ」


  ■


「た、つみ……! 起きなさいってば……!!」ルビィの声が聞こえる。
「お兄ちゃん! しっかりして!!」空の声が聞こえる。
「無駄だ。まだ死んではいないだろうが、そろそろ死ぬ」
 カツン、カツンと、トタン屋根にアクセルの足音が響く。ルビィに歩み寄っているのだろう。
「……おい、ちょっと待てコラ」
 目を開けば、ちょうど目の前にアクセルのブーツがあったので、思い切り掴んだ。そして、アクセルの顔を見上げ、思い切り馬鹿にしたように笑ってやる。
「龍海!?」「お兄ちゃん!」味方二人の声。生きてましたよ俺。
「……貴様。まだ生きてたのか」
「いやあ。ほら、やっぱこんな状況でおちおち死んでられないしね……。っていうか、もっと驚いてくれてもいいんじゃねえの?」
「ふん。蘇ってきた者など、何人もいた」
 そう言うと、アクセルは俺が掴んでいる足を思い切り後ろに向かって振る。俺の体は宙を飛び、アクセルの後ろに着地する。
『準備はいいかい? 変身するよ』
 頭の中でアスの声が響く。え、変身なの? と、ちょっと首を傾げるが、この状況だ。うだうだ言ってられんだろう。
「オーケー。全部任せた」
『ありがとう』
 その瞬間、俺の腹がカッと熱くなる。そして、思いのまま俺は怒鳴った。
「変身!!」
その瞬間、俺の周囲に真っ白な光が渦巻く。そして、その光が俺の体に包帯のように巻きつき、俺の姿は変わっていく。白いサテン生地の手袋に、黒いフリルが折りたたまれたエナメルっぽい生地の肩や胸の谷間が惜しげもなく露出した燕尾ドレス。そして、腰まで伸びる黒髪は艶やかだ。
 周りの光が収まり、目の前のアクセルと目が合った。
「……よう。アクセル。またせたな」
 しかし、何故かアクセルが眉を一段と眉間に寄せた。……なんだ? 何か変か?
「……あの、お兄さん?」
 後ろから、ジャニスが俺を呼ぶ。首だけで振り向いて、「なに?」と聞いてみると。彼女は指をアゴに当てて、首を傾げた。
「えーと……。お兄さん、でいいの?」
「……いいもなにも、俺男だし」
「で、でもその姿、完璧『女の人』なんだけど……」
 ……え?
「ちょ、ルビィ! コンパクト貸して!!」
 ルビィも呆気に取られた表情で、何も言わず放物線を描くようにコンパクトを投げた。それをキャッチし、急いで開き鏡を覗き込む。
 そこにはたしかに、女性の顔があった。バランス良くパーツが配置された清楚系美人な顔。その雰囲気は、百合の花を思わせる。
「か、鏡の向こうに新しい私……」
「いや、そんな呑気な……」ジャニスからツッコミが入る。初めてハムスターにされて以来のボケである。
「おいアス!! これはなんだぁ! どうなってんだああ!!」
 と、今度は脳内に居るアスに向かって怒鳴る。すると、俺の腹から一つの白い光の玉が出てきて、それが姿を変えてアスになる。
「どうなってんだ、って。キミは今、私と合体しているんだよ。私の方が魔力強いからな。私の面が大きく出たのだろう」
 ……たしかに、今の俺はアスにそっくりだ。姉妹と言われたら信じてしまうだろう。

「まあいいじゃないか。キミは戦う力を得た。あの男の顔を、思い切りぶん殴れる力だ」

 どうせ解除すれば戻るんだから、いいだろう? と笑うアス。
 ……まあ、そうだな。俺を殺したアイツをぶん殴れるなら、これくらい安い物だ。
「さあ、私を――」そう言って、アスの体がまた変化する。今度は、銀色に輝く大きな大剣へと姿を変えた。
「使え!」俺はその剣を取り、構える。重くはない。むしろ羽根の様に軽いくらいだ。

「戦う姫か……。面白い」
 アクセルはニヤリと笑い、その顔を締め直す。そして、ガトリングを俺に向けた。それが放たれる前に、俺は奴に向かって走る。靴は白いハイヒールブーツなので走りづらいかと思ったが、そうでもなかった。一瞬でアクセルの懐まで潜り込み、剣を薙ぐ。それをアクセルは、バックステップで躱し、ガトリングを俺に向ける。
『手を前にかざせ!』
 と、アスの声。俺は言われた通り剣から片手を離し、掌をアクセルに見せる。すると、目の前にダイアモンドの様な壁が現れ、アクセルの放ったガトリングの弾を弾く。その壁を出したまま、俺はまっすぐツッコミ、アクセルを弾き飛ばす。
「ぬうぅっ!!」
 その壁を俺の拳で突き破り、アクセルの顔面を思い切りぶん殴ってやる。床に思い切り倒れ込んだアクセルを見下し、俺は自分の拳を見る。誰かを殴ったのは初めてだったが、なかなか決まった。
「……へっ。死人の恨み、思い知ったか」
「ちっ。……スフィア様から聞いてはいたが、さすがガイアモンドだな……」
 唇を切ったのか、唇の端から血を流すアクセル。しかし、その顔はとても楽しそうだった。
「ジャニス! あれをやるぞ!!」
「わかった!」
 すると、俺の後ろにいたジャニスが一瞬でアクセルの横に立ち、自身の体を電気にして、ガトリングに入り込む。そして、そのガトリングを放つ。弾速が凄まじく、雷鎚の様に速い電気が、俺の肩を貫く。
「れ、レールガンって奴か……!」
 漫画だかラノベだかで見たぞ。電気で弾丸を音速以上で撃ち出す技術……。
「だったら、やられる前に倒す!!」
 俺は前蹴りを繰り出すが、「パンツ見えるよ、お兄さん」とジャニスの声で俺は急いで足を引っ込めてしまう。その隙に、アクセルがガトリングを突き出し、俺の腹に突き刺した。
「うげえ……!」
 思い切り後方にぶっとび、スカイの横まで飛ばされてしまう。
「い、いってええ……」
「何してんのよ、マヌケ。あんた元男でしょうが」
「元って言うなあ!!」
 ていうか、もう空からスカイに戻ったのか。
 俺は起き上がりながら、スカイの顔を見る。なんだか人間性を疑われている様な、そんな表情である。
「……いいかスカイ。空に言っとけ。俺は別に、好きで女になったわけじゃねえ」
 返事も聞かずに、俺は飛び出す。ガトリングから放たれた弾を剣で防ぐ。手が痺れて、剣を離しそうになるが、我慢して突っ込みとにかく剣を当てようとがむしゃらに振るう。
「うっしゃあ!」
 踏み込んで、剣を薙ぐ。アクセルの胸に切っ先がかする。
 しかし、痛みに慣れているのか、隙は小さい。むしろ大振りしてしまった俺の隙の方が大きいくらいだ。アクセルの右手が俺の顔面を掴み、俺を押し倒した。
「んがっ!!」
 強く背中を打ち、苦悶で表情が歪む。
「終わりだ」
 腹に冷たい金属の感触。マウントポジションを取られた俺は、アクセルの肋骨の下に親指を押し込む。
「かぁっ!!」
 痛みに跳ね上がった所を押しのけ、俺はすぐにバク転で距離を取る。
「癪に障る……!!」
 アクセルがガトリングを連射。レールガンと化したガトリングの威力は凄まじく、壁を作ってもすぐ砕かれてしまい、避けるしかない。が、弾速も速く避けるのが酷く難しい。いくつかが肌を斬り、ピリピリと痺れが伝わってくる。
「うっ、ぜぇなぁ!!」
 目の前にダイヤモンドの壁を作り、剣をフルスイングして叩き割る。破片がアクセルに向かって飛び、それを撃ち落とすアクセル。
 だが、その隙に俺は剣を振りかぶる。魔力を思い切り剣に溜め込み、アクセルを狙う。
『よく狙いなさい』
 耳元でアスの声がする。
『ガイアモンド――私の力は『破壊』万物を砕く力。扱いが難しいはずだ』
「おおぉぉぉりゃあぁあっ!!」
 思い切り振り下ろす。白く大きな光が、まるで巨大な剣のように熱風を放ちながらアクセルへ飛んでいく。
「ライラック!! 避けなさい!!」
 スカイの声が、轟音の中聞こえる。そして、すべての魔力を放出仕切った後、残った光景は俺を起点にまっすぐ割れた倉庫。そして割れた海だった。
「す、すげえ……」
『だが、あの二人には逃げられたようだ』
 アスの言葉など耳にも入らず、モーゼも真っ青な割れっぷりに感心していると、後ろからドスンという音。振り向くと、ルビィを抱えたライラックがいた。
 ライラックから飛び降り、ルビィは俺にドロップキック。
「ぐぁっ!?」
「あっぶないわねぇ龍海!! ライラックがいなかったら死ぬとこだったわよ!!」
「や、悪い! まさかあんなに威力があるとは!!」
 ついでローキックされる俺。でも事実危なかったので、反省。
「はぁ……無事、みたいね。とりあえず」
「ん……まあ、女体化したのを無事と捉えていいのかは今一つわからんが……」
「死ななきゃいいのよ。死ななきゃね」
 ……まぁ、そうだな。どうせ戻るんだし。
「ちょっとお二人さん。和んでるとこ悪いんだけど」
 突然スカイが、俺達の間に立つ。そして、何故か俺を睨んだ。
「どうすんのよ。バレットパール取られて。あのバレットパールはまだ覚醒してない。次やる時は強くなってるかもしれないのよ?」
「過ぎたことを言っても仕方ないだろう。リオ?」
 と、俺の持っていた剣がアスへと姿を変えた。スカイを見上げ、不敵に微笑む。なぜかそれを見て、スカイは一歩後ろに下がる。
「元はと言えば、キミが勝手なことをしたからだろう? 空ちゃんを利用しなければ、少なくとも今奪われはしなかったと思うが」
「っ……や、それはそうだけど……アスは腹立たないの? 王権戦争の道具にされて。もっと好きにやりたくない?」
「別に。……キミこそ、七天宝珠としてのプライドを忘れてないか? 私たちで魔法界は保たれているんだぞ」
 険悪なムード漂うスカイとアス。話している内容はさっぱりわからんが、ちょっと――いやかなり居心地悪い。
「ねえ。リオさん」
 いきなりスカイの口遊が空に戻る。そして、スカイからリオが出てきて、スカイは完全に空へ戻った。
「今はそういう話、どうでもいいじゃないですか。とりあえず、バレットパール取り返すことを考えないと」
「そうだけど。空ちゃん? いろいろあるのよこっちにも。意地というかなんというか?」
「意地で大事なこと決めていいんですか? 仲間を取り戻したいんですよね?」
「そ、そうなんだけどぉ……」
「だったら今はこらえましょうよ。ルビィさんと協力するのが、今は一番だと思いますし」
 リオはぷるぷると震え、涙目になる。子供の癇癪寸前って感じ。しかし、それを押さえ込み、咳払いで俺やアス、ルビィを見る。
「いい、空ちゃんが言うから協力するのよ。私は、いつかアンタらの寝首掻くからね!!」
 そんな捨て台詞を残し、リオは空の中に入って行った。そんな空が、最後にウインクを見せた。……まあ、確かに今のは空のおかげ。
「ありがとうよ、空」
「どういたしまして。……あ、そうだルビィさん」
「んあ?」
「いつか決着をつけましょう。私、負けませんから」
 そう言って、空はくるりと踵を返してスタスタと歩いて行ってしまう。
「決着って、なに?」
 俺を見るルビィ。だが、彼女以上にわからないのは俺である。
「わっかんねえけど。今日はもう帰ろうぜ。疲れた」
「……それもそうね。ガタガタだし、汚れたし」
 そうして、俺達は空の後を追う。もう空は半分紺色だ。今日の夕飯はなんだろう?

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