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第12話『お泊まり会前編です』


 夏休み最初の一週間は、生活サイクルを壊滅させるという無駄極まりない成果を挙げるだけになってしまった。
 昼間は寝て夜に起き、ゲームしたり電話(居残り部メンバーと)したり宿題したり。ちなみに宿題は終わった。暇な時間は宿題に費やすに限る。後はもう遊ぶだけだ。
 そろそろ居残り部で遊びたいなー、とか思っていたら、華からメールが飛んできた。
『居残り部は明日16時に風和の家の前に集合! 来なかったら居残り部じゃなくて帰宅部な!』
 わけはよくわからなかったけれど、とにかくやっとお泊り会なんだなあとわくわくしながら、準備することにした。

  ■


 そして翌日。私は少し大きめな黒いボストンバックを持って、薬師寺家の前にやってきた。
 陽は傾きかけているが、まだまだ明るい。けど、その分暑い。
 一応露出は増えたが、涼しい格好でよかった。胸元に白いレースで涼しさをアピールした黒のタンクトップに、ベージュのホットパンツと茶色のベルト。どちらも少し大きめなサイズなのが、このファッションのポイントである。ちょっとぶかぶかなのを着てると可愛く見えるのだ。そして、今履いている青い紐のパンプスもお気に入り。
 女の子の集まりで、少し気合の入ったお気に入りファッションをしてしまったかなあ、と思いつつ、他のメンバーを待った。
 中に入ってもよかったけれど、漫画でしか見たことのないような西洋スタイルのお屋敷に一人で入る度胸はない。
 東京ドームくらいの敷地はありそうで、白い門柱に大きな門。その奥に見える白い外壁に緑の屋根の、シルバニアファミリーのお家フルセット揃えたみたいな屋敷は、一体何人住めるのか想像力の働かせ甲斐があるというものだ。
「おーいみゃこー、早かったわねえ」
 と、キャリーバックを引きずってきた甘利が、遠くで手を振っていた。
 甘利はミントグリーンに白のチェックが入ったレディースシャツに、デニムの七分丈パンツ。コンバースの白いスニーカーを履き、暑いからなのか、髪留めで後ろ髪をまとめている。よく髪型が変わるなあ甘利は。
「やっほー」
「みゃこは宿題終わった?」
「もちろん。暇だったからね。華が補習してる間。――っていうか、一泊なのに、なにその荷物?」
 甘利の荷物は、どう考えても一泊のそれではない。三泊はできそうだ。
「ああ、これゲーム機とか入ってんのよ。華がさー『やっぱ風和の家ってプロジェクターとか巨大テレビとかあるのかな!? そこでゲームやったら最高に面白そうじゃん!』ってことで、あたしがね」
「華もゲーム機もってなかったっけ?」
「あたしのがデータ進んでるのよ。Wii持ってきたから」
「ああ、なるほどね」
 Wiiは本体内蔵メモリで、データ持ち出しにはメモリーカードが必要になる。が、甘利も華もメモリーカードを持っていないので、本体ごと持ってきたのだろう。
「お二人さん、久しぶり」
 ふと、後ろから声がした。奏の声だ。


「ひさしぶ――」振り返ったら、異常に奏の顔が近かった。「りゃあああああ!?」
「はははっ! 『りゃああああ』って!」
「ちょっ、奏! 一週間ぶりでそれはないでしょ!」
 どんどんイメージが崩れていく奏さん。こんなにイタズラ好きだとは思いもよらなかった。こういうのは『はっ。くだらないよ』くらい言う印象だった。
 私から離れた奏は、英語のロゴが入った白い半袖のTシャツに、黒いベスト。黒のチノパン。そして革靴と、カジュアルとフォーマルの中間みたいな格好だった。相変わらずイケメンである。
 もはや中性的というか、完全に少年寄りだなあと思ったのは、ないしょの話(本人は気にしないだろうけど)。
「みゃこは相変わらずリアクションが可愛いなあ。――まあそれはさておき、まだ華は来てないのかい?」
「アイツは基本、時間にルーズだから」呆れたように肩を竦める甘利。「約束の一〇分前行動は基本だっていうのに……。アイツは十分後行動なのよね」
「なに、そろそろ来るだろう」
 その時、バイクのエンジン音が辺りに響く。
 道路を走ってきたバイクが私達の前に止まり、フルフェイスのヘルメットを被った男性が、こっちを見ていた。そしてなぜか、その後ろには背中合わせのように華が乗っていた。
「は、華? 何してんの!?」
 目を丸くする私達に、華はなんでもなさそうに軽く手を挙げ「よっ」と言って、バイクから降りる。身長が小さい所為で、ほとんど飛び降りる感じになっていた。
「この人だれ……?」
 案外人見知りのする甘利は、少し私の後ろに隠れる様になりながら、バイクに乗っているフルフェイスメットの男性を見ていた。
 袖口が黒い灰色のTシャツに、深緑のズボン。その人はヘルメットを脱ぐと、顔を見せた。鼻が高く、顎も首も細い。髪は短い金髪。針金みたいな身体をしているが、腕はどうにも引き締まっている。有り体に言ってすごいイケメン。
「こんにちはーん!」彼は妙に甲高い声をしていた。「はじめまして〜。姉さんから話は聞いてますぅ」
 呆気に取られる私達三人。
「こいつ、雨っていうんだけど、私の双子の弟。ゲイだから安心して」
「やだちょっと姉さん! ゲイって言わないでちょうだい! 私ホモって言われる方が好きなのよ!」
 なにそれ怖い。しかし華といい、この雨さんといい、子孫繁栄に不安のある家族だなあ。
「サンキュー雨。助かったわー」
「ホント勘弁してよねえ。私これからバイトなんだから……」
「弟は姉の足になる義務があんの。んじゃ、部員達が呆気に取られてるから、早く行きなー」
「もちろん言われなくても行くわよ! それじゃあねお姉さん方!」
 と、ヘルメットを被り、バイクを走らせて行ってしまった。なんだか台風のようなインパクトを残して。
 百合と薔薇だと、薔薇のがインパクトでかいなあ。
「悪いねえ、変な弟で」
「あんたほどじゃないわよ」
 睨み合う華と甘利。二人共開戦が早すぎるよ。
「みんな揃ったんだ。そろそろ入らないかい?」
 奏の提案に、二人の喧嘩ムードは収まる。
 そして、誰がこのチャイムを鳴らすか、とみんなで門柱のボタンを見ていたが、こういう時物怖じしないのが華のいいところだ。
 華は私達が押さないと見るや、すぐに押した。
 風和の「待っててください。今開けますね」という声がインターホンから鳴り、門が独りでに開く。噴水や花壇なんかがある左右対称の庭を抜け、分厚い木の扉をくぐると、中央にデカい階段が伸びる、赤絨毯のエントランス。真上にはシャンデリア。さすがの私も、一瞬漫画の世界に入り込んだかと思った。
「どうもみなさん。お久しぶりです」
 階段から降りてきた風和は、薄手のピンク色したVネックの下に、白いワンピースを着ていた。優雅に振る舞う風和にはお似合いだ。



「久しぶり! 一週間ぶりだね」
 私は風和に駆け寄ると、その手を取った。風和もにこやかにその握手に応じてくれた。
「ええ。今日は楽しんでいってくださいね」
「風和のお父さんとお母さんは?」
 風和は、少しだけ残念そうに「お二人とも、今日はお仕事なんです。皆さんに会うのを楽しみにしてたんですけど」
「ふーむ。友達の親を観察して、『おお、似てる』ってニヤニヤするのが趣味な私にはすこしツライお知らせだなあ」
 華は頭を掻きながら、そんな事を呟いた。
 なんて嫌な趣味だ。
「それじゃあ、お部屋に行きましょうか。個室と大部屋がありますけど……」
 普通の家でその二択は絶対ありえない。さりげないスケールの差に驚いていたら、華は「もち大部屋! なんか修学旅行っぽいねー」と大して驚いた風でもなくそう言った。
「了解しました。では、こちらに」
 私達四人は、風和の後に続いて、二階へと上がっていく。
 長い長い廊下を歩いて行くと、しばらくして、風和が一つドアを開けると、そこには二〇畳ほどの大きな部屋があった。大きなテレビに、ソファなど。しかも何故か冷蔵庫やお菓子の棚なんかもあって、もはや暮らせるのではないかというレベルの部屋だった。どうやらお風呂もあるらしい。すごく無駄遣い感のある部屋だ。いや、子供的にはすごくわくわくする部屋だなんだけどね。
「うひゃーテレビでけえー! これ何インチ!? 奏よりちょっとデカい上に、私ら五人並んでもちょっと横幅余るけど!」
 奏は私達の中で一番身長が高い(一六八センチ!)。ただ奏はいまいちインチがわからないらしく、笑顔で頷いている。
「おー。麻雀卓あるじゃん。華、久しぶりにやっとく?」
 さっきから華のテンションが高い中、どうやら甘利も少しはしゃいでいるらしい。自分から華を誘うなんて、珍しい。いつもは華の誘いにしょうがないなあ、って乗る感じなのに。
「んー……いや、今日はやめとくよ」
 珍しく華は、苦い顔で首を振る。本当に珍しい。麻雀とかギャンブル性の高いゲーム大好きっ子が断るなんて。
「へ? なに、どうしたの華ともあろうものが。――ああ、もしかして一人余るから?」
「いや、それもあるんだけどさ……風和が激強くって勝負にならないんだよね。こないだ二人で暇だったから、スマホのアプリで麻雀したんだけどさー。初めて見たよ天和なんて。しかも何回やっても風和の手は天和。多分現実でやっても近いよ……」
「なにそれー……」
 驚きながらも風和の顔を見る甘利。ちなみに、麻雀を知らない人の為に説明すると、つまり天和は、配られた牌がそのまま役が出来上がっているという物だ。どれぐらいすごいかと言うと、三十三万回やって一回の確率だとのこと。
「んじゃ、遊戯王でも……」
「あー、二人でやっててよ」途中で首を挟む私。奏も「僕もインセクター羽蛾がエクゾディアを捨てた所くらいまでしか見てないんでわからないよ」と、周囲をキョロキョロ見回しながら言った。
「なんでそんな微妙な所までなの!? 逆によくそこで見るのやめられたね!」
 私の言葉に「いやあ、どうにも虫は苦手でね」と肩を竦める。確かに虫嫌いにはインセクター羽蛾のデュエルはつらいだろうが。
「ルール知りませんし……。私もパスですね」
 風和は部屋の中央にあったソファに座る。私と奏は、そんな彼女を挟むようにしてソファに座った。華と甘利は、そのソファの後ろで床に座り、カードを広げて遊び始める。なんで遊戯王のデッキ持ってきてるの二人は、とか言わないでおこう。――私も持ってきてるし。
「そういえば、晩御飯はどうしようか?」
 ぼんやりとテレビを眺めながら、奏が呟く。なんだかドラマのワンシーンみたいだった。
 後ろの方で、華の「融合召喚! 『E・HEROフレイム・ウィングマン』!」という掛け声さえなければ。っていうか、華ってエレメンタルヒーローデッキだったんだ。
「後で、お腹空いたらファミレスでも行こうよ」
 私の提案に、風和が「私、ファミレスって初めてです」と目を輝かせる。そういう大衆文化的なモノに疎いのは、お嬢様の特権だ。
 私はふと後ろを見ると、華と甘利はまだデュエルしてた。融合召喚した華は、エクストラデッキから紫カード――融合モンスターを笑顔で召喚している。が、甘利は伏せていた罠カードを開く。
「あ、神宣で」
「ちょっとー!?」
 しかし、神の宣告(魔法、罠カードの無効化。召喚、特殊召喚をライフ半分払って無効化できるカード)を使われてしまい、フレイム・ウィングマンはエクストラデッキへと戻っていった。
 なにもできなくなった華は渋々ターンを甘利に渡し、甘利のモンスターにダイレクトアタックされて負けた。
「うがー負けたー。甘利ずっけえよー。カウンターばっかりじゃんそのデッキ!」
「そもそも神宣は全デッキ対応でしょうが。入ってないアンタのデッキがおかしい」
「だってデッキの周り遅くなるし。ライフ半分も払うとかありえないっしょ」
「後半で使えば損は少ないし、そもそも召喚されたらやっかいなモンスターだっているでしょうが。ライフ全削りより、半分で済むなら儲けものよ。スカイスクレイパー三積みよりよっぽどマシだわ。二枚抜いてテラ・フォーミングと神宣でも入れなさい」
「うぐぐ……」
「ま、ゴリ押しじゃ私には勝てないってことね」
 どうも甘利は華より遊戯王強いらしい。勝ち誇った顔で、使ったカードを回収しながら、ニヤニヤと笑っていた。そのカードを見るに、甘利のデッキはトラップやリバースモンスターなんかが主力のバーン(直接攻撃ではなくカード効果によるダメージ)デッキらしい。
 対して華は、E・HERO(エレメンタルヒーロー)が主力のビートダウン(直接攻撃でライフを減らすこと)デッキらしい。デッキ構成はまるで正反対。
「華、私と代わって」
 なんだかむずむずしてきた私は、ソファの上から口を出す。
「いいけど、甘利マジ強いよ?」
「私もそこそこやってるから大丈夫」
 華と私は場所を交代し、ソファの裏側に私と甘利が向かい合う。ポケットからデッキを取り出し、シャッフル。ライフは相談して通常の八〇〇〇。
「「じゃーんけーんぽんっ!」」
 じゃんけんの結果、私が後攻に決まり、甘利から。まずドロー。
(……うーん、ちょっと足りない)
 五枚の手札をじっくりと見て、プレイングを決める。
 甘利はというと、カードを二枚伏せ、モンスター一体を裏守備で出す。
「オッケー。ターンエンド」
「私のターン!」
 カードをドロー。六枚になった手札を見つめ、プレイングが閃いた。今回のドローがよかった。
「私はまず、ハリケーンを発動。リバースカードをすべて甘利の手札に戻す。黒い旋風を発動。黒い旋風はBFが召喚された時自分のデッキから召喚されたそのモンスターより低い攻撃力のBFを手札に加える。そして星五のBF―暁のシロッコを通常召喚。このカードは相手フィールド上のみにカードが存在する場合、リリース(昔でいう生贄)なしで召喚できる。そして、更に星四のBF―黒槍のブラストを特殊召喚。自分の場にブラスト以外のBFが存在する場合特殊召喚できる。さらに星三のBF―疾風のゲイルをブラストと同じ効果で特殊召喚。そしてさらに効果でブラストを召喚。もう一体効果でブラストを召喚。ゲイルの効果で甘利のモンスターの攻撃力と守備力を半分にする。そしてシロッコの効果発動! モンスターを一体選択し、その選択したモンスター以外の攻撃力分、選択したモンスターの攻撃力をアップする。私は黒槍のブラストを選択。黒槍のブラストの攻撃力は八四〇〇! さらに黒槍のブラストは守備力を上回った分相手ライフに貫通ダメージを与える。黒槍のブラストで守備モンスターに攻撃!」
「リバースモンスターデスコアラ! 相手の手札一枚につき四〇〇のダメージ! それに、デスコアラの守備力は半分になっても八〇〇! まだ私は四〇〇残る!」
「ダメージステップ! 私は手札からBF―月影のカルートを手札から捨てて効果発動! 黒槍のブラストの攻撃力を一四〇〇ポイントアップ! ブラストの攻撃力は九八〇〇!! 私の勝ち!」
 イエス! とガッツポーズする私に対し、甘利は愕然と肩を落とす。そして、華からは「ワンキルかよ!!」と何故か軽く怒鳴れられた。

「どんなリバースカードだって戻しちゃえば関係ないし! それに今回はちょっと運がよかったんだよ」
「BFは鬼畜すぎる……」
 甘利の呟きに、私は何も言えない。まあ、確かにキーカードは制限だしね。ヴァーユとか、さっき使ったカルートとか。強い証っていうか、インチキカードの証拠というのか。とはいえ、これでも環境トップというわけじゃないから恐ろしい。
「っていうか、みゃこがBFってなんか意外なんだけど。もっと可愛いカード使うかと」
「いや、あといくつかデッキ持ってるけど。え、BFって可愛くない? 私、鳥って好きなんだよね」
「いや、私的には可愛くはないわ……」華が私から目を逸らし、私は甘利に「可愛いよね?」と訪ねてみたが、結局目をそらされた。
 え、可愛くないの? っていうか、鳥って無条件で可愛いんじゃないの?
「ま、とりあえずそれはいいけど、ホントそろそろ晩御飯行かない? 僕はお腹が空いて死にそうだ」
 ソファの縁に顎を乗せ、ぐでっとする奏に、風和が苦笑する。
「そうですね。行きましょう。でも、私近くのファミレスとか知りませんよ?」
「ファミレスなんて上等なの行かなくていいよ。近くに百円コンビニあったから、そこでたくさん買って食べれば。そっちのが安いしね」
 華の提案に、私たちは賛成した。確かに、どうせならそうした方がお泊りらしい。
「じゃあそうしましょ。やたら食べるが居残り部には二人もいるんだし」
 と、甘利が華と風和を見る。
「なに、二人はそんなに食べるのかい? 二人共、そんなに食べるようには見えないけど」
「華はまだ大食いですむレベルだけど、風和はマジですごいわよ。テレビ出れるレベル」
 甘利の言葉に、奏はまじまじと風和のお腹と顔を見つめる。
「ちょっと、照れますね。それに甘利さんは少し言い過ぎですよ」
 顔をほんのり染め、頬に手を当てる風和に、私と甘利と華の思考はシンクロする。言い過ぎじゃないんだよなあ、と。風和の食べっぷり見てから、テレビの大食いが物足りなくなったもんなあ。
「それじゃあ、晩御飯買いに行くぞー!」
 華が腕を挙げ、私達もそれに倣い、グーを天井に向かって突き上げ「おーっ!」と叫んだ。


  ■


 屋敷から出て、華の案内で近くにあるというコンビニへ。
 奏が持ったカゴにどんどんジュースやらお菓子やら、お腹にたまる物を放り込む(奏が自分から持つと言い出した。こういうイケメンチックな行動がほんとよく似合う)。
「すごいですね、コンビニって。いろんなものがあります!」
 はしゃいで店内を見回す風和に、「うおおおライダーの食玩新しいの出てる!」と小さな箱を振って、音で中身を判別しようとしている華。甘利は、ファッション誌を立ち読み。自由過ぎるって皆。
 私は、奏一人に荷物を持たせるわけにも行かず、「手伝うよ」と二人でカゴを持っている。
「ふむ……。なんかこう、新婚のような感じだね」
「あはは。なんかそう言われると……」
 奏は本当に中性的だし、周りから見たらそう見えるのかもしれない。
 ちょっとだけ恥ずかしくなってきた。
「って、奏は男の子に見られてもいいの?」
「僕はそんなの気にしないよ。むしろ、男も女も楽しめると思えば、人生二倍楽しいじゃないか」
「た、たくましい考えだね……」
「そうかな?」
「うん。たくましいと思うよ。あ、奏はカップ麺とかお菓子って食べられるの?」
「ラーメンは塩と醤油なら大丈夫。とんこつはダメ。お菓子はまあ、細かい分類だけど、基本食べられる。野菜スティックでも無難に買うさ」
「野菜スティックで大丈夫?」
「僕は小食なのさ。お腹へってもジュースでいいし」
 どうやら燃費がいいらしい。華や風和とは大違い。身体は一番大きいのに。
「そこのお二人さん! イチャイチャしてないで早くこっちにカゴ持って来いよー!」
 華が私達二人を呼び、「イチャイチャなんてしてないから!」と反論して、私はカゴを介し奏を引っ張る。もちろん、奏は反論なんかせず、笑ってるだけだったけれど。

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