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第13話『躾とも言うべき』

「いやー! 悪いね時子さん。寿司なんか取ってもらっちゃって!」
 と、一層賑やかになった村雨家の食卓でそんな品のない大声を上げるのは、俺の祖父こと、村雨東龍。母さんがとった寿司を、遠慮のえの字も見せずにぱくついている。歳を取るのも考えモノだ。俺、もっといい歳のとり方したい。孫には尊敬されたいよな。
「ほら、お前らももっと食え食え」
 と、寿司皿を指さすじじいだが。皿にはすでに、たまごとかガリとかイクラとか、おおよそ「ランクの低い物」しか残っておらず、俺ももっとたくさん食べたかったんだけど、七天宝珠連中とかも想像を絶する食いっぷりで、俺が食えたのは本当に微々たる物だ。後でカップ麺でも食おう。ちょっとでも寿司に染まった舌にカップ麺を乗せるのは、本当はあまりしたくないのだが。なんか泣きそうだよ俺。寿司なんて誕生日でも食えるかわかんねえのに。
 しかたないのでガリに箸を伸ばすと、横からかっさらわれた。
「あ」
「すまない龍海。ガリは大変気にいったから譲れん」
 ガリをかっさらっていったのは、アスだった。お前うにとかたっぷり食ってたよなあ!?
 まあ、口に放り込んだ物を今更回収するわけにも行かないし、俺はたまごに箸を伸ばした。すると、またかっさらわれた。今度はリオだった。
「たまごおいしいのよねえ」
 おいおいおいおい……。お前マグロとか結構がっつり行ってたような……。
 イクラ――は、見ればすでにシュシュがいただいてしまっている。「このぷちぷちたまらないー」とか言っている。うん、知ってた。
 なにこれ泣きたい。つーかお前ら、物食わなくても平気なんじゃねえのかよ。今だけは、出てきてないルベウスがありがてえよ。きっとルビィや空も食えてないだろうと思ったら、意外にも満足そうにしていた。ああ、そうか。きっと俺の分がこいつらの胃に回ったんだな。というか、ルビィも空もそんなに食う方じゃないし。
 そうか――満足できていないのは俺だけか……。
「んあ? なに泣いてんのよ龍海」
「なんでもないです……」
 食後のお茶を飲むルビィに気づかれ、俺はせめて高いカップ麺を食べようとか考えていた。
  ■
 みんなが部屋に戻って、俺は一人、食卓でカップ麺を啜っていた。ちょっとお高め、二五〇円のとんこつ醤油ラーメン。いいもん、寿司とか食いなれないくらい高いものより、これくらいのランクの方がいいもん、手軽だし。
「ん? おい龍海、お前まだ食い足りねえのかよ」
 俺の後ろに立ったのは、じじいだった。
「誰かに食い散らかされた所為でな」
 それだけ言って、ラーメンに意識を注ぐ。空きっ腹にしみるなあ、と感動してしまう。ラーメンってマジで庶民の味方。
 この温かみをかみしめていると、俺の向かいにじじいが座る。そして、ラーメンをじっと見つめる。
「俺にも一口寄越せ」
「まだ食うのかよ!」
 もう八〇とか行ってるはずなのに、食い意地ハンパないな。
 俺はじじいに強奪される前に、ラーメンをかきこんだ。大分腹も落ち着いたし、満足だ。男子高校生にとって食は大事だからな。
「さーて、俺は部屋に戻るかな」
「なんだよ。もうちょっとおじいちゃんとお話しようぜぇ」
「うるせえ、だったら寿司返せってんだ」
 俺は廊下に出て、階段を登る。眠くなってきたし、着替えを取ったらお風呂へ行こう。そう考えながら階段を登っていたら、アスと出くわした。
「なんだ、トイレか?」
 俺は半身になって、道を譲ってやると、やつは黙って首を振る。
「違う。七天宝珠の気配だ。近くに来ている」
「何人?」
「一人」
 マジかよ。
 またラウドかな。俺はちょっとうんざりしながら、アスをガイアモンドに戻し、ポケットに押しこむ。アスが気づいているんだから、他の奴らも気づいてるだろうし、一足先に行くか。
 踵を返し、玄関で急いで靴を履き、外に出る。月明かりがアスファルトを包み込み、不気味にひんやりとする空気が流れている。
 夜なんてだいたいそんなもんだ。だから俺は夜が嫌い。朝の方がいいじゃないか。明るいし、足元も見える。夜が明るいのは変な気分だから、あまり月も出ないで欲しい。
「アス、行くぞ」
『了解』
 頭に響く声と同調する。もうアスの魔力は回復しているし、変身は可能。俺は走りだし、身体の中に入ったアスと重なるようにイメージする。互いの心が、二つの液体となって、俺の身体で混ざり合うようなイメージ。そして、二人は同時に叫ぶ。
「『変身!』」
 俺の身体が、すべて変わっていく。髪は伸び、手足は細く、肌は白く。着ていた服は、上品な白銀のドレスへと変わる。俺は村雨龍海という一般高校生から、魔法少女アース・プリンセスとなった。男から女性に変わるというのが、相変わらず馴れないが……。
 いい加減なれなくては、と思いながら、俺は思い切りジャンプした。街がミニチュア大になるまで跳び上がると、そのままアスが指示する方向へ向かって飛んだ。一体どういう浮力でこうなっているのかはさっぱりわからないが、今となっては、そんな未知の動力による飛行なんて慣れたものだ。実際、飛行機が飛ぶ理屈もよくわからないので、あまり変わらないといえば変わらないが。
 しかし、飛ぶために存在している飛行機が飛ぶのは納得できるが、自分がそのままで飛んでいるというのは、相変わらず戸惑うものがある。
 そうこうしてやってきたのは、とある小学校の校庭。昔俺が通っていた学校だ。その中心に立っていたのは、スフィアだった。相も変わらず、チャイナドレスを着た麗しの女性。
 俺は、そのスフィアの前に立ち、「よっ」と片手を挙げて挨拶してやる。
「お久しぶりですわね。えーと……、アースでしたっけ?」
「そっ。何回かあってるだ……わよね?」
 一々女言葉にしなきゃいけないっていうのは、本当面倒だな。しかし、三味線にされないためにも、小さな嘘からコツコツと、だ。嘘ってのは自分の中だけでも本当にしないと、どこかでぽろっと口からボロが出る物なんだよ。
「ルビィお姉さまは?」
「後から来る。今は私だけ」
「――そうですか。なら、あなたを手土産に、お姉さまを倒しに行きますわ」
 と、ウィップサファイアを取り出し、鞭へと変身させる。
 俺も同じように、大剣を取り出し、スフィアに向かって走った。
『駄目だ龍海! 迂闊に責めるな!! ウィップサファイアの能力は――!!』
 アスの言葉は、少し遅かった。スフィアが鞭を振るってきたので、俺は思わず、剣でそれをガード。その瞬間、なんとも言えない違和感が身体に纏わりついた。
「んあ……?」
『遅かった……!』
 アスがなぜか、ひき逃げを目撃した、とばかりに悲痛な声を上げる。なんだ、俺はそこまで失敗したのか?
 いや、そんなことはない。俺は剣を振りかぶり、即効で勝負をつける為に魔力を剣に込める。
「でぇぇぇえりゃぁぁぁあッ!!」
 そして、振り下ろしたのだが、いつもの様に必殺技が発動しない。
「――あれっ?」
 おかしいな。なんで出てこないんだ?
『出るわけがない。先ほど、ウィップサファイアに打たれたからな』
「な、なんだよそれ?」
 狼狽えていると、スフィアが私を見ろと言わんばかりに、地面に鞭を打った。その高い音に、俺は思わずスフィアを見る。
「あなたの七天宝珠は、もう能力を使えませんわ」
「はあ? なんでだよ!!」
 ほくそ笑むようにして、スフィアが言う。
「私の七天宝珠、ウィップサファイアの能力は『改竄』鞭で叩いた魔法兵器の能力を、私の思う通りに変えることができるんですの」

 能力がなくなっては、こんなものただの重たい剣だが――。
 鞭よりは強いだろう。そんな思いで、このクソ重たい剣を振るう。
 対七天宝珠用としては最強でも、もうただの剣対鞭。肉弾戦で負けるとは思えないしな。
 地を抉るみたいに剣を振り下ろすが、スフィアはまるで羽の様に空へと舞い上がり、空に立つみたいに逆さとなって、八本の鞭を俺に向かって振るう。吹き荒れる鞭の嵐を、剣で防いだり地面に転がったりしながらなんとかやりすごすと、今度は空中から降ってきたスフィアの膝が俺の頭に入った。
 視界が揺れる。吐き気も押し寄せる。だが、それら全部飲み込んで、俺は着地したスフィアの腹に向かって剣を突き出す。が、まるで意思を持った蛇の様に、剣先を鞭が包みこんでガード。
「ウィップ……今のは躱せましたわ」
 躱せた、とはナメたことを言ってくれる。
 俺の舌打ちには気づかず、ウィップサファイアが、人へと姿を変えていく。
 その姿は青いチューブトップと、ヘビ柄のハイヒールブーツ。白い髪はいくつかの束になっていて、まるで蛇のように見える。奴がウィップサファイアの精だろう。
「――久しぶりだな、コラム」
 俺の口を使って、アスが喋る。ウィップサファイアの精は、コラムという名前らしい。

「久しぶりねアス。何百年ぶりかしら?」
「コラム。出てこなくてもよろしいですわ」
「あん。釣れないことおっしゃるわースフィア様は」

 ベタベタとスフィアにくっつきながら、その上頬が落ちそうな程の笑顔を見せている。……まさか、あいつも異性を愛せない世界の住人か。おいおい。あの世界って秘境だったんじゃねのか? 最近そんなやつばっかりに出くわしてるんだけど。
 もっと異性に目を向けようぜ? いいもんなんだけどなー。
 口に言うでもなく、そんなことを考えていると、胸の奥から声が響いてくる。
『基本的に、七天宝珠は七天宝珠にしか会わないからね。――世界に女性しかいないと思い込んでいるのさ』
 なんだよそりゃあ。
 ……まあでも、こいつら厳密には人間じゃねえし。別に構いやしないが。
「それより、アース・プリンセスさん?」
 傍らに立つコラムの頭をそっと撫でながら、挑発的な視線で俺を撫でるスフィア。ムカっときたので、すこし乱暴に返事をする。
「あなた……ガイアモンド、渡してくれません?」
「渡すと思ってんの?」
「思ってないですわ。――もし、お姉さまを裏切って渡していたりしたら……」
「したら?」
「ひき肉にするところですわ」
 おーおー。
 相変わらず恐いことおっしゃる。……けどまあ、俺はルビィを裏切る気はないんでね。

 なにがあっても。
 それに、今は無能力になっていようが、そろそろルビィと空が来る。そうなったら、いくらだって逆転の手はあるんだ。
「――あなた、もしかして、お姉さま達が来るなんて、思ってません?」
 その時、スフィアがゆっくりと右手を挙げ、指を弾いて鳴らす。
「アクセル、ジミー、ラウド、ジャニス!!」
 名前が呼ばれた瞬間、俺の脳裏に四人の顔が浮かんだ。
 そして、上空を見上げた瞬間、その四人が俺に向かって、それぞれの武器を構えていた。
「悪いねアース・プリンセスさん。ウィップサファイアの魔力は、あなた達にしか伝わっていない。私の研究の成果だ」
 俺と同じ、ガイアモンドの剣を振りかぶったラウドがそんなことを自慢気に叫ぶ。
 まずは、アクセルのガトリング。剣を傘のようにして躱すが、手足の先、身体の末端に弾丸が当たって体勢を崩される。まずい、死ぬ。
 明確な死の予感に引きずられ、俺の足は後ろへと下がった。
 しかし、逃げようとしたその足は、ジミーの音声魔法によって弾かれ、コケてしまう。
 そして、電気と化したジャニスに体を押さえられ、ラウドの剣で背中を斬られた。

「いっだぁぁぁぁぁ!!」
 サイレンみたいに背中から全身に響く痛み。ぬるりと這い寄る血の温もり。
 ――しかし、それよりも、怖かった。死ぬかもしれない。そんな想像が、散髪後の自分の頭より明確に想像できる。
 ちょうどその時だ。

 俺の変身が、解けたのは。

「――なっ。アス、アス!?」
 短くなった髪と平らになった胸を確認し、ポケットに入っていたガイアモンドを取り出し、必死に呼びかける。
『……済まない。これ以上は危険だ』
 胸の奥から響くアスの声で、また一つ心に影が落ちる。この場面で変身が続いていようが、さして変わりはないが。心の支えがなくなって、一層不安になる。
「ガイアモンドいただき」
 ジミーに握っていたガイアモンドを奪われ、その上服の襟首を掴まれ、スフィアの前まで運ばれる。
「……あら、男でしたのね。意外ですわ」
「あぁ、すみませんスフィア様。報告を忘れていました」どうでも良さそうな声のアクセル。「ルビィ様と一緒にいたハムスターと、アース・プリンセスの正体がそいつです」
 うなだれる俺の顔を、スフィアが掴んで上げる。スフィアの顔が視界を満たす。
「なっ――龍海さん……!?」
「よぉ。驚いたか……?」
 軽口を呟いて、スフィアに笑って見せた。こういう時こそ弱みを見せてはいけないと思ったのだが、意味はあったのか。いまいちわからない。
「……あなたが、あのハムスターで、アースだった……?」
 動揺が目に見て取れる。
 俺から目を逸らしたいのに逸らせない。目の動きは、そんなジレンマを語っていた。
 ここで何かハッタリをかませたら、もしかしたら逃げられるんじゃないか。頭を回し、何を言おうか考えていると、スフィアがニヤリと笑った。
「……好都合、ですわ」
 いつの間にか鞭に戻っていたウィップサファイアを俺の首に巻きつけ、持ち上げた。締められているという感じではなく、本当にただ持ち上げられただけ。
「あなたを人質に、ルビィお姉様から七天宝珠を交換してもらえば、それで私の目的は完成。しかも、『お姉様を傷つけない』という最高の形で!!」
 その時、俺ははじめて理解した。
 スフィアという女の恐ろしさ。
 それは徹底したルビィ第一主義。敵でありながらルビィのことを第一に考え、尚且つそれでも余裕を持てるほどの実力を持つ。そして、ルビィ以外のことはすべて後に置ける意志の強さ。俺はそこを見誤った。
「感謝します龍海さん。あなたのおかげで、王手が打てそうですわ」
 その瞬間、なぜか俺の足が地面に届いた。首の鞭も外れている。スフィアが解いたのかと思ったが、そうではないらしい。鞭が途中から、俺とスフィアの間くらいで切れていた。
「……誰ですの!? ――まさか、お姉様?」
 暗闇の中から、ゆらりと現れた人物を見て、一番驚いたのはきっと俺だろう。
 三日月のように鈍く光る日本刀を携えた、俺の祖父、村雨東龍その人だ。



「てめえら……俺の孫に何してやがる」
「じじい……なんでここに……」
 掠れる声で必死に言葉を紡ぐ。じじいは不揃いの歯を見せて笑い、一瞬で俺の隣に立った。そのただ事ではないスピードに、スフィア陣営達は一様に顔を驚きの色に染める。
「お前が出かけてったから気になって追っかけてきたんだよ。途中、空飛んだから見失ったが……。なんだよありゃ? お前はいつからスーパーマンになった?」
 アース・プリンセスでいる所を見られたらしいが、なんとも言えない。しかし見失ってからも孫を追っかけるなよ。仮に彼女とかと遊びに行くってなってたら気まずいってレベルじゃねえぞ。
「……さて、えーと。お前らはあれか? 俺の孫にカツアゲしてる不良グループか何かか?」
 その解釈は面倒がなくて助かるが、それにしちゃあとんでもないキャラの濃さだ。
 結局、どう説明したもんかわからずにいると、じじいは俺の襟首を掴んで、遠くへ放り投げた。思い切り背中から地面について、傷をずった。
「がぁ――っ!! じ、じじいもっと丁寧にぃぃぃ……!!」
 痛い痛いと地面を転がるモノの、だーれも見てない。悲しい。
 ……あ、ジミーが見てる。
 あ、ジミーが頭を下げてる。
 ……やばい、惚れそう。
 なんだよ、あいつやっぱりいい人かよ。なんか毛色が違うなーとは思ってたんだが。
「龍海ぃ! お前はとっとと逃げろ!!」
「じじいは……!?」
「俺はこいつらにお仕置きしたら帰るよ」
 お仕置きって……。
 じじいは知らないだろうが、そいつらは魔法が使えるし、その中で最強と呼ばれる七天宝珠を三つ持っている。どう考えても勝てる相手じゃ――。
 もう信じてもらえるとかもらえないとかではない。俺はじじいでは勝てないということを伝えようと思ったが、運悪く、それよりも開戦が早かった。
 まずはジミーがマイクスタンドを振り上げ、じじいの頭に振り下ろす。だが、それを掴んで止めると、刀の柄でジミーの腹を打つ。
 流れるような動作。
 ジミーはそれでじじいの実力が概ねわかったのか、すぐに離れ、マイクに向かって歌い、衝撃波を放った。
 生身の人間にあれを躱すことは至難の技。じじいは大きく息を吸い込むと
「かぁぁぁつッ!!」
 とてつもない大声を出し、その衝撃波を掻き消した。
 いや、確かに、理論上できなくはないんだけどもさ……。しかしそれには、同等の大きな声が必要になるじゃねえか。我がじいさんながら化けもんだ……。
「ジミー退け!」
 アクセルがジミーに声をかけ、それを受けたジミーが飛び上がると、アクセルのガトリングが火を吹いた。
 見えない飛礫がじじいに向かって飛来するが、それをすべて剣で叩き落とす。
「バカな――!!」
 アクセルの悲鳴にも似た叫び同時に、アクセルの脇から飛び出したジャニスが、腕を電気に変えてじじいに向かって突き出す。
「おじいさん! 降参しないとビリビリするよ!!」
「おじいさんじゃねえ。おじさんと呼びな!!」
 そんな図々しいことを言うと、じじいは鞘を引き抜き、それと刀を勢いよく擦り合わせ、火花を上げ、ジャニスへ飛ばす。
 電気と化した部位に当たったらしく、ジャニスの腕が爆発。「きゃぁぁぁぁ!!」
ぶっ飛ばされたジャニスの腕は健在で、すこしやけどを負っているが健在らしい。
 幼子の腕が飛ぶというのは、さすがに見たくないしな。
「――全く情けない!! こんなヤツ、一気に吹き飛ばせばいいんだ!!」
 叫んだラウドは、偽ガイアモンドの剣を振り上げ、波動砲の構えを取る。
 ――しかし、その危険性に気づいたのか、じじいは一瞬でラウドの前に駆け寄ると、刀の峰でラウドの腹を打ち抜く。
「くは――っ!!」
 しまった。
 こんなことしている場合じゃない。
 じじいの強さも確認したし、早く逃げなくては。そろそろ、血の量がやばいし……。

 恐る恐る体を起こして、この戦場を抜け出した。

 暗闇に点々と置かれた街灯を頼りに、虚ろな目と力のない足で家に帰る。

 もはや痛みすら消え失せた頃、我が家にたどり着いた。ノブを捻り、ドアを開いた先には、濡れた髪と肌をパジャマで隠し、アイスキャンディーを咥えるルビィがいた。
「龍海あんた、どうしたの――!?」
 心配そうなルビィを見て、安心したのか、俺の意識はそこで落ちた。
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